イケメン貴公子のとろけるキス
今は肩甲骨あたりまでのロングだけれど、同じように肩までの髪の毛にしてみても、クセ毛のせいでフワフワしてしまうし、ナチュラルメイクでは地味な顔立ちがさらに埋もれてしまう。
パンツルックが似合うほどの身長がないから、フェミニンなスカートばかりになるし。
永遠に追いつけない存在なのだ。
「必要ないかなと思って」
「そんなのもったいない! 有給休暇を七日間も付与されて、その上旅費まで会社が出してくれるっていうのに!」
小夜さんは、長い足を組み替えて私に詰め寄った。
でも、正直言って困ってしまうのだ。
というのも、私には恋人もいなければ、一緒に行けそうな友人もいない。
親友のひとりやふたりはいるものの、長期の休みはそう簡単に一緒に取れるものじゃない。
結局、無駄に持て余してしまうのだ。
「ひとり旅だって、なかなかいいものよ?」
「ひとり旅ですか……」
手元のパンフレットに目を落とす。
その中には、女性のひとり旅を推奨しているパッケージもあった。
実のところ私は旅行会社に勤めておきながら、海外はおろか国内でさえひとり旅の経験がない。
貧困な経験値で旅行の企画を立てているから、小夜さんや滝本くんのような企画を生み出せないのかもしれない。