イケメン貴公子のとろけるキス
「……すみません」
小夜さんの目が、からかう眼つきに変わっていく。
「それとも……恋ボケってところ?」
「なっ……ちっ、違います」
慌てて否定してみるけれど、小夜さんの鋭い視線の前で効力はゼロだった。
否定が肯定にすり替わってしまう。
一週間も経つのに、ルカの残像は色褪せるどころか、どんどん色濃くなっていた。
時間が経ったからこそ、ルカと交わした言葉、ルカの仕草、そんなものがすべて思い出された。
空港でルカと出会った時からの一コマずつを何度も思い返しては、ため息が出てくる。
こんなはずじゃなかったのに。
この気持ちは、ローマを飛び立った瞬間に置いて来るはずだったのに。
飛行機から見えたローマの街並みがどんどん小さくなるように、ルカを想う心も消し去れる。
そう思っていたのは、私の大きな誤算だった。
ううん、そう思い込もうとしていただけなのかもしれない。
本当は、どこかで分かっていた。
ルカを忘れることなんか、できやしないと……。