イケメン貴公子のとろけるキス
◇◇◇
私の心を揺さぶるニュースが社内に流れたのは、それから二ヶ月が経ったある日のことだった。
ルカのことが私の中で少しずつ薄れ、もう少しで消化できようかという頃だった。
「今度、ローマ支社から異動してくるみたいだね。さっき掲示板に貼り出されたって」
「かなりのイケメンって噂だよ」
社内の通路を歩いているときに、女子社員たちのそんな会話を耳にした。
ドキッとして、彼女たちが通り過ぎたほうを振り返る。
ふたりは声を弾ませて嬉しそうに歩いて行った。
まさか、ルカのはずはないよね。
そう思いながら、足は企画開発部と逆方向に向く。
足早に着いた掲示板の前には、数人の人だかりができていた。
その人たちの間から首を伸ばし、貼り出されている何枚かの異動公示を順番に見ていく。
これは関西支社だし、こっちはシカゴ。
ルカじゃないだろうと思っているくせに、意思に反して鼓動は勝手に速まる。
それが期待からなのか、憂慮からなのか、自分でもわからなかった。
そして、最後の一枚を見たところで私の目は奪われてしまった。
“ローマ支社 販売促進部 ルカ シモーネ 十一月一日より東京本社 企画開発部への異動を命ず”