恋の処方箋SOS
「まったくあなたは抜け目がありませんね
後はかわいいナースさんたちへの差し入れです」
はっきりと言われて俺は話題を変えた
普段こんなに話すことなどまずない、仕事の話ならいざ知らずましてや相手が犬猿の相手となれば余計だ
「杏子のどこがかわいいんだ?」
杏子というワードにひかれて俺は訊いた
「どこ?さあ?僕はそろそろ行きますね」
ゆっくりもしてられないが欠伸がとまらず結局、仮眠をとるため突っ伏した
10分のはずだった内海の苛立つような呆れたようなため息でとび起きた
その拍子に内海が俺を叩こうとしていたカルテにおもいきり頭をぶつけた
「痛ってぇ」
「なにが痛いだサボってた癖に」
「いま何時だ?」
「午後の回診の受け付け終了だ」
「やべっ」
「ナースたちがおまえをかわいそうだと憐れんで起こさなかった
今日は帰れどーせ夜勤なしだろ」
内海が珍しく俺を遠ざけているような言い方をした
「なんかあった?」
俺はふわっとあくびをしてから訊いた
「白石が病室で患者とキスをしてたらしいナースたちが騒いでいた」
「ふーん」
内海が勘ぐるのも無理はないくらいに俺は意地悪く笑った
「龍太郎?」
「あがるよ大人しく」
俺は着替えを済ませてから3階の病棟にあがって病室のドアをノックした
「高瀬あんこさん」
私は危うくお茶をふきかけてむせた
その人物は紛れもなく龍太郎だった
「あんずですあんず」
「しらをきるなよ?白石先生とキスをしてましたか?」
私は首を振ろうとしてやめて悩んでから言った
「してないよ?」
「なんでおまえは待てないんだ?」
「待つもなにもないよ」
「まあどうでもいいけどじゃあな」
「あっえっ」
「今日は帰るから」
「帰る?」
私はいまいち状況が飲み込めず龍太郎を見つめ返していた
「帰るんだよ家に、他になにかあるか?」
「家にいたって1人でしょ?」
「なんでおまえといないといけないわけ?」
そりゃあそうだよね私がいけないんだし
「なんかうしろめたいことがある顔だな?」
「ない、なにもないよ」
「あっそ、おまえって本当に中途半端だよな踏みきれてないような感じがする」
私は海を漂う海月のように掴み所がなくふわふわとしているとよく言われていた
そんなことを考えていたら龍太郎がいなくなっていた
ため息をついて婚姻届けを見つめ私はぐちゃぐちゃにして床に投げた
ダメだ私には重すぎる、龍太郎のことが
なんで龍太郎はあんなに決断力があるんだろう
そんなことを考えていると病院独特の早めの夕飯が運ばれてきた
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