恋の処方箋SOS
06
箸をつけるとやっぱり味気なく3口で箸を止めた
「食べないんですか?」
「白石先生」
白石先生は床に落ちていた紙片を丁寧にひろげた
「やはり相手は龍太郎先生でしたか」
「あっもういいんです」
「もういい?」
「私には龍太郎は重すぎる、結婚なんてまだ私にはハードルが高すぎます」
「そうですか、少し熱っぽいときいていたんで診察に来ました」
そういえば白石先生、首から聴診器さげてたしまあお医者さんだしね
白石先生はしばらく黙って聴診器をあてた
聴診器ってなんでこんなにドキドキするんだろう
「特に異常はないですね」
「はい」
「どうしたんです?」
「いえ」
「まさか感じちゃいました?」
私は白石先生の視線をかいくぐって俯いた
「そんなことないです」
「正直でかわいいですねあなたは」
「真幌さんに悪いです」
「真幌は僕のことなんて覚えてないですよ、龍太郎先生にすべて奪われましたから
だから僕は医者になったんです、医者になって真幌を治すって決めたんです
でもいまの僕じゃダメだった」
「そんなことないですよ」
「本当にかわいい、かわいくてたまらない」
「白石先生は真幌さんのためならなんだってできちゃうんですね正直すごいです」
「真幌のため?そういう解釈もあるんですね」
俺は仕事帰りにある場所に向かっていた
都心の喧騒を一瞬、忘れさせてくれる静かな場所
周りは緑の木々に覆われていて古城のような佇まいがある白い建物
精神病棟なのだと白石先生が教えてくれ何度か訪れたこともある
俺は車を停めて中に入ると夏場なのにやたらと涼しい
その場所が持つ独特の雰囲気だろうか
どこを見ても白一色、頭がどうにかなりそうだ
受け付けで自分の病院のiDを見せて看守とともに病室に行った
「月島さん面会だ」
「龍さん」
真幌は車イスで移動してきていつものように呼んだ
「久しぶり、もう白石のこと許してやったら?」
真幌さんはただ無反応、看守がちらりと俺を見た
「私は龍さんが好き、なんでちゃんといつも会いに来てくれないの?
白石って誰?」
真幌さんの中で俺が白石で白石は他人でしかない
「真幌さん忘れるなんてひどいですよ」
「あなたのほうがひどいわこんなとこに入れて」
真幌さんが俺の手首をすごい勢いで握ってきて爪をたてた
「っ・・・」
赤い血が一筋流れ看守が慌てて俺を外に閉め出して鍵をかけた
「もうここに来ないでくれないか兄ちゃん」
俺はなにも答えずに車に戻り杏子が気になって病院に向かった
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