恋の処方箋SOS
二人がいなくなったあと内海が珍しく私的な発言をする
「美奈がときどきわからなくなる」
「はあ?」
「いやいいんだなんでもない、聞き流してくれ」
一人でうんうん頷く内海はなんだか滑稽だ
「父親がそんなんでどうすんだよ向き合えよ」
俺も人のことはいえないけど見るに耐えない状況だからしかたない
「ああそうだな」
「俺は寝る」
龍太郎はそう言って眠ろうとしていた矢先、龍太郎めがけて美奈が抱きついてきた
「っ・・・ってぇ」
顔をしかめた龍太郎に申し訳なくなりつい声を荒げた
「こら美奈、龍太郎は怪我人なんだぞ」
龍太郎は怒るでもなく上体を起こして泣きじゃくる美奈の頭を撫でていた
「どうした?帰ったんじゃないのか」
普段の龍太郎からは想像もできない優しい声音
「お家に帰りたくない、だってパパもママもいないもん」
内海が無理矢理引き剥がして嗜めた
「ママは死んだんだ」
それはあまりにも残酷すぎた
美奈は泣きながら走り出した
「バカ、言い過ぎだろ」
手近にあった白衣を羽織り俺はゆっくりと歩きだした
途中でおろおろしている杏子と出会う
「美奈は?」
「いなくなっちゃってごめん」
「っ・・・」
「龍太郎」
踞る龍太郎に声をかけたが息が荒い
「俺なら平気だから美奈を頼む」
ヤバイ無理しすぎたかもうちょっとだけ・・・
意識が霞んで遠退いて気づいたら病室のベッドの上だった
「美奈」
俺は思い出したように立ち上がろうとして気付く
「なんだよこれ」
ベッドの柵に繋がれた拘束具・・・なにがどうなってんだ
上体を起こすことは辛うじてできるがどうなってる
「気づいた?君があんまり治療を拒むからこうなったんだけどね
元気してた?龍太郎先生、ってこの特別病棟の病室は初めてか」
「藤堂」
「逃げられないよ、まっここでゆっくりしなよ」
「外せよこれ」
「なんで?ああ前科があったね前も暴れたんだよね拘束したら」
「帰る」
「どこに?龍太郎先生きいてなかった?その怪我が治るまでここにいるんだよ」
がしゃんと派手に音をたてて鎖が鳴る
「外せ、じゃねぇと引きちぎる」
「今は薬が効いてるから痛みはないみたいだね」
「2度は言わない」
「いいよどうぞご自由に、痛みを感じない分、醒めたら痛いよ?」
がんとなんどか鎖を引っ張るがびくともしない
「藤堂」
「なに?君がここを出れるのは1ヶ月後、それまでは僕の治療プログラムにつきあってもらうよ
まずは食事にしようか」
笑った藤堂が憎らしくて俺は鎖をおもいっきり引っ張る
テーブルに置かれた食事には手をつけずにいた
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