恋の処方箋SOS
「食欲はないか」
治療のために体に触れようとすれば拒まれる
「触るな」
「んじゃあなにか食べてよ龍太郎先生」
がしゃんと派手に音をたてて床に食べ物が散乱する
「出せよこっから」
まるで手負いの獣のような彼を睨み付けた
「君の怪我を治すには僕が必要だ」
前も龍太郎先生はここに来たことがある、あの時も拒んでいた
「必要ねぇよ」
龍太郎そう呼ばれた気がして俺はふっと笑って鎖を引きちぎった
骨はたぶん無事じゃないだろうがあいつのところに帰りたい
ただそれだけだった
なんとか普通病棟までたどり着いて俺は誰かに抱き抱えられた
今度は見慣れたベッドの上で鎖の代わりに点滴がされていた
包帯もきれいに巻き直されている
「ったく藤堂から連絡があった」
「内海?」
「しばらくは絶対安静だいいな?」
「美奈は?」
「杏子が宥めてくれてとりあえず帰った」
俺は静かに目を瞑った
それからたぶんかなり時間は経っていたはずだが急に慌ただしい音で目が覚めた
看護士がなにやら騒いでいる声を聞けば心中そう聞こえた
時代錯誤じゃないかと思っていたら見知った名前が口走られていた
「白石先生みたいよ、彼女さんは即死みたいだけど気の毒よね二人で死のうとしたのにね」
「ねぇそうよね」
廊下にいるから聞こえるだろうと思って呼びつけた
「呼ぶならナースコール使ってくれてかまわないんですよ比嘉先生」
「いやちょっと聞きたいんだ、白石先生のこと」
「まだ起きあがらないほうがいいですよ」
俺はなんとか上体を起こしてペットボトルの水を一口飲んだ
「白石先生は?」
「比嘉先生、他言無用ですよこんなこと話してるの聞かれたら」
「わかったから」
「どうも施設に入っている彼女さんに会いに行ったんですってバラの花束を持って、今日は彼女の誕生日だからと特別に許してもらったんですけど白石先生、彼女の部屋に入るなり彼女を刺して自分も死のうとしたんですが警備員さんに取り押さえられて切り傷だけで死ねなかったんですって」
「白石先生は?」
「処置室にいますよって比嘉先生ダメですよ動いたら
私、内海先生になに言われるか」
「わかってる」
素直な俺を不思議に思いながら看護士が行ってしまった
正直、退屈すぎる
「暇そうだな」
「内海おまえもな」
「俺はおまえの監視役だ」
苦笑いを浮かべたままサイドテーブルにある薬をちらりと見る
「相変わらずだな」
前に比嘉が入院したときも薬を飲ませるのに苦労したのだ
薬を飲ませれば拒絶反応が出て暴れまわる
「受け付けないんだよ」

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