黒胡椒もお砂糖も
クリスマスの二日間を何とか高田さんの瞳を頭から追い払って過ごすと、翌日は楽しみにしていた女友達とのご飯だった。
砂原陶子は大学時代からの友人で、別れた夫とも共通の友人だった。結婚式にも来て貰った彼女と長い間会わなかったのは、彼女に会うと元夫の話が出てきそうで、それに耐えられない内は無理だと思っていたからだ。
だけどもうそろそろ大丈夫かな、と思った。だから私から連絡を取ったのだ。
彼女がまだ結婚していないことは年賀状で知っていたけど、電話の向こうで嬉しそうな声を出して快諾してくれたときにはホッとした。
学生時代によく行った居酒屋で待ち合わせをしていた。
ガラガラとドアを引くと、温かい空気とおでんの匂い。いらっしゃい!の声に弾む気持ちを抑えてカウンターを見ると、既に来ていた彼女が手を振っていた。
「陶子!久しぶり~!」
思わず駆け寄る。会うのは3年ぶりくらいになるけど、彼女は変わってなかった。相変わらず利発そうで、それからゴージャスな美人。瞳にはきらりと光る輝きがある。
「美香も、元気そうだね~」
嬉しそうに微笑んで私を見る彼女の隣に座る。
「ビール下さい」
おしぼりを貰って注文した。
食べられるようになってから、ほどほどにアルコールも飲んでいた。それもあってか体重もちゃんと増えている。
「ごめんね、ずっとバタバタしていて連絡が途絶えちゃって」
陶子は判ってるというふうに、私の手をポンポンと叩いた。