黒胡椒もお砂糖も
次は写真立て。恐らくその、夫を寝取ったと思われる女とその人が抱く赤ちゃんが写っている写真立てだった。じいっと見てみたかったけれど、怒り沸騰中の私はこれ以上のムカつきは必要ないから見ないことにした。これの破損は諦めてもらおう。ガッツリ恨みがあるし、破いたり焼いたりはしないんだから。
それもヤツに向かってぶん投げる。また避けられたけど、今度はガッシャーンと音がして、ガラスが飛び散った。
「止めろ!気が狂ったのか!?」
誠二が真っ青になって身を竦めて叫ぶ。
いっそ狂いたいわよ!心の中で絶叫する。このバカ男を殺せるものなら、今すぐ目で殺したい。
「残念ながら正気よ!私は怒ってるのよ、見下げたバカ男!」
彼は驚いた顔のままで椅子から立ち上がって壁に背をつけている。
「あれだけボロボロになって傷付いたのに、会社も退職になって寝たきりになっても耐えたのに、私は何も悪くないんじゃないの!妻がいるのに避妊もせずに他の女とヤっておいて、よくもいけしゃあしゃあと――――」
次はゴミ箱を蹴っ飛ばす。
「お前がそんなんだから外に癒しを求めたんじゃないか!」
頭の中で血管が切れる音がした。握り締める両手に力がこもる。体が熱くて溶けそうだった。
「弱虫の卑怯者!それだったら浮気相手を孕ませたから別れてくれって正直にいわれた方がよっぽどマシだったわよ!!何が何だか判らないままで家も仕事も健康も失って、死にたいとさえ思った私の1年半をどうしてくれるの!」
今度は辞書を手に取って壁にぶん投げる。それはバンと音をたててぶつかり、そのままずり落ちた。