黒胡椒もお砂糖も
驚いて固まる私に続けて頭を下げて謝り、君が悪いんじゃないんだ、とか、ずっと考えてたことなんだ、好きな子がいるが、その子と間違いを犯す前にこの結婚は解消したい、などと好き勝手言った後、その日の内に夫は出て行った。
春の日が差し込む居間に立ちすくんで、私は一人で長い間呆然としていた。
彼が何を言ったのかが判らなかった。全然そんな気配もなく、いきなり結婚生活の終わりを告げられたのだ。
他の女に惚れたと言って。
確かに触れ合いは減っていた。だけども昨日だって楽しく私の作ったご飯を一緒に食べたのだ。今年の夏は海に行こうって約束もしていたのだ。そろそろ子供の事も考えようかって正月にも言ってたじゃない。
あの約束は何?好きな人って誰?前触れもなく出て行くなんてあり?今日はエイプリルフールだったっけ?
・・・なんで、彼は出て行ったの?
さっきまで自分の前にいた男は知らない人のようだった。
確か私はその日、表情をなくしたままで電話をしたと思う。結婚記念日のサプライズに用意していたレストランへ、予約を取り消しに。
このままで終わるだなんて思ってなかった。
学生の最後から付き合って、お互い社会人に慣れた頃に結婚、そして4年が普通に過ぎていたのだ。彼に変化が起きているなんて全く気付かなかった私だけど、さすがにもうちょっとはチャンスをくれるだろうと思っていた。
それくらいの長い付き合いだったって。
だから、戻って来てくれるって。
そう思ってた。呆然として泣けずに、一人で、彼を待っていた。