黒胡椒もお砂糖も


「み―――――」

「裏切っただけでなく、それを隠して別れるだなんて情けないバカ男!!」

 ヒールで横にあった椅子を蹴っ飛ばした。足が痛んだけど、心の痛みの方が断然強かったから、足の痛みは無視した。

「いい加減にしろよ!警察呼ぶぞ!」

 誠二が叫んだ。

 私は机の上のものを全部腕でなぎ払って落とし、その後で上体を起こして真っ直ぐに立つ。

 そして肩で息をしながら誠二に向かって言った。両目は誠二に据えたまま、外さずに淡々と。

「どうぞ、呼んで頂戴。そして出来たら訴えてくれる?すると私が暴行を働いた理由も説明出来るし、あなたのご両親にもまた会えるわね。不倫や子供のことだって、ご両親は知っていたんでしょう?そしたらうちの親との話し合いだって出来るし、そうだ、人の夫を寝取って子供を産んだ女にも勿論会えるはずよね。あなたの、現在の、妻にも」

 誠二は何度かパクパクと口を開閉していたけれど、その内ぐっと引き結んだ。

「誠二は知ってる?慰謝料を請求できるのは、不倫の事実を知って3年以内だってこと。もう別れているとか関係ない、私は今晩から3年以内なら、あんたにも、彼女にも、慰謝料だって請求できるのよ」

 誠二は真っ青な顔でしばらく黙って私を見ていた。そして、いきなりがばっと床に両手をついて、土下座した。

 私は驚いて息を止め、それを見下ろす。

 振り絞るような、苦しそうな声で、彼が言った。

「・・・・悪かった・・・本当に、全部、俺が悪かったんだ」


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