黒胡椒もお砂糖も


 支社の事務員大嶺さんは、どうやら噂話を流していないか、支社内で止めてくれているらしく、うちの事務員さんに高田さん絡みの問い詰めはされていない。それも私の気分を軽くしていた要因だ。

 よしよし、バレてないんだなって。もしかしたら、あの時一緒にいた楠本FPが話さないように大嶺さんに言ってくれたのかも。

 そんな配慮をしそうな人だった。


 ざわめく営業部の中で、特に話す相手もいない私はビルの地下に入っているコンビニ目指してエレベーターで降りる。

 ロッカーにストッキングの代えがないことに気付いて、補充しようと思ったのだ。一つは入れておかないと、いざという時に困る。

 ビルの地下に入っているこのコンビニは、ビルの中に入っている全ての会社で働く人間の御用達だ。なのでここでしか売っていない珍しいものもたくさんあって、初めて来た時は楽しかった。

 名刺の台紙とか。男性用の靴下やワイシャツや下着も豊富に揃っている。男性陣は急に決まった出張用に重宝しているらしい。それと同じでストッキングもたくさんあるのだ。

 私は棚の間を歩いてストッキングを選ぶ。

 ハニーベージュ・・・うーん。でもこれちょっと私には色が濃かった。じゃあシルキーは?

 周囲に注意を払わずに選んでいたから、後ろに人が立ったことにも気付かなかった。

「また破れたんですか?」

 いきなり耳元で低い声がして、思わず飛び上がる。

「うひゃあ!?」


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