黒胡椒もお砂糖も


 ・・・あ、降り損ねた。

 呼吸が浅くて頭がクラクラする。握られた右手が熱を持って熱く燃える。他の人が乗ってくる前にと何とかコンビニの袋を拾い、1階に戻ってきたエレベーターを出た。

 あー・・・ダメだ。外の寒風に当たって沸騰した頭を冷やそう。今が冬でよかった。夏だったら歩く一人サウナ状態で死んでいたかもしれない。

 フラフラとビルの入口に向かった。

『忘れちゃダメですよ』

 高田さんの静かで低い声が蘇る。

 やたらと整った綺麗な顔で極上の微笑をしていた。

 それに、やけどしたみたいな私の手が。

 ・・・・ちょっと待ってよ~、本当に勘弁して。

 あんたみたいな男―――――――――・・・・どうやったって、頭から消えてくれそうにないじゃないの・・・・。


 ビルの入口で冷たい風に白い息が舞い上がるのを見る。

 私は途方に暮れて立ちすくむ。


 ああ・・・神様。

 私、あの人から逃げ切れるでしょうか・・・・。




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