黒胡椒もお砂糖も
第4章 視線も手も笑顔も

1、花束か弁償か



 お正月を実家で迎えた。

 戻ってきた娘が盆の帰省時よりは格段にマシになったと両親は手を叩いて喜び、母親は毎日大量のご馳走を用意した。

 心配をかけてたんだなあ~と今更ながらに思う。だから私はハイハイと何でも頷き、笑顔を絶やさず、出されたものは全て食べることで恩返しをする。

 父と仕事の話をし、母とは友達の話をして、後は特にどこへも出かけずに家にいた。

 みかんと餅を大量に食べた。そのせい・・・いや、お陰で、夏終わりの頃より体重は5キロも増えた私だった。

 洗面所の鏡の前で、流石にこれは肉をつけすぎ・・・・?と一瞬悩む。だけどもちょっと前、平林さんに連れていかれたカフェで食欲を取り戻すまでの私がガリガリすぎたのだ、と残念なお腹の贅肉を無視することにする。

 お腹につかずに出来たらもうちょっと上に・・・と悲しく思ったけど、元々30歳過ぎで胸がピンピンでパンパンな訳がないではないか!と自分に突っ込んだ。

 いきなりそんな胸になったら新年の出社で胸の整形を疑われそうだ。そんなの嫌でしょ、私!

 うーん、しかし・・・体重分の肉は全て腕と太ももとお腹についた気がする。どうしてお尻とか胸とかにはいかないのだろうか。人体の神秘だ!

 だけど確実に離婚前の平和だった私に戻りつつあった。少なくとも外見は。顔色も良くなり、肌のくすみも取れたようだ。髪には艶が戻り、こしもでてきたような気がする。

 鏡の中で笑顔を作れば、こけた頬が作る皺の代わりに光る玉が浮かぶようにもなった。・・・顔にもお肉は付いてきた模様だ。ま、皺よりはいいよね、と自分に言い聞かせる。

 皺皺のガリガリよりは、ふっくらして柔らかそうな方が。


< 132 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop