黒胡椒もお砂糖も


「・・・いやだって、何で私なのよ。そこが納得出来ないんだもん・・・」

『は!?そんなこと別にどうだっていいわよ!好きだって言ってくれてるんだから、ありがとうって返しなさいよ!』

 それは自分に自信がある人だけが出来るワザでしょ、と心の中で呟く。

 私がもの凄い金持ちだったり、もの凄い美人だったり、やたらといい人脈をもっているだとかなら、好かれるにも理由になるかもしれないけど・・・そんなんじゃ全然ないし。

 むしろ、人生で一番暗くて疲れている時期に出会った人なのに、何故って思うのが普通でしょ。疑心暗鬼にもなるってもんでしょ。それも相手はそれこそ恋愛相手に困らないだろう美形で金も稼げるいい男なのだ。好きになるのは私でなくていい、というか、私じゃないのが当然だろう。

 それをウダウダ話すと、電話の向こうの陶子は苛々したらしい。

『鬱陶しいのよ、あんたー!!』

 きいいいいっと叫んでいる。

『なら聞いたらいいじゃないのよ本人に!バカらしいけど、どうして私が好きなんですかって!』

 何を言っているのだこの女は。私はため息をつく。

「いや、近づきたくないから。あの人といると目立つし、じろじろ見られるのが嫌なのよ」

『楽しめっちゅーの、人の視線を!それをビタミンに変えて輝けっちゅーの!』

「・・・私は地味~に生きたいんです」

 盛大なため息が聞こえた。何かを蹴っ飛ばしたらしい音もついでに聞こえた。

 多分、ゴミ箱が犠牲になったと思われる。


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