黒胡椒もお砂糖も


『――――――自分を好きだって言ってくれる異性を探すのに、皆がどれだけ面倒臭い行程と思いと努力をしてると思ってんの?あんた、それワガママよ!逃した魚は大きかったってなってもいいわけ?』

「・・・いいもん」

『嘘つき』

 ぴしゃりと陶子は言う。

 それが心臓に真っ直ぐ突き刺さって、一瞬呼吸が出来なくなった。

『一度は幸せな結婚を手に入れた人が、そんなこと本気で思ってるわけないでしょ。誠二を愛せたんだから、彼だって愛せるはずよ。それに多分、私の将来の年金かけてもいいけど、彼の方が誠二よりいい男っぽいし』

 ・・・年金賭けやがった、この子。おバカさんだわ。検証しようがないのに。

 言葉が出ずに受話器を握ったままで黙り込んでしまった。

 誠二を愛せたんだから――――――――・・・

『美香?聞いてる?』

 陶子の声にうんと返す。それからだら~っと口を開いた。

「・・・だって・・・」

『うん?』

「また愛して、また捨てられたらどうするの?」

 口に出してから自分でハッとした。

 やだ。――――――私ったら・・・そんなことを。

 今度は陶子が電話の向こうで黙る。コチコチと時計の音が部屋の中で響く。

 ああ、どうしよう・・・そんなこと言うつもりはなかったのに。陶子は私を心配してまた辛い思いをしてしまうだろう。やだやだ、早く大丈夫って言わなきゃ――――・・・


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