黒胡椒もお砂糖も


 だけど私が言葉を出すより先に、彼女が話し出した。

『失敗したら、また次に行くのよ、美香』

「―――――――」

『そうやって長い人生を過ごして行くの。誰だってそうしてやってきたし、やって行くのよ。あんただけじゃない』

 陶子は決意を感じさせる声で話す。さっきまでのおふざけモードは完全に消えていた。

『一回失敗したからって次に怯えてたら、あんたの人生じゃなくなるじゃない。それこそ誠二のせいにして、自分を守ってるだけよ』

 ぐさっと来た。

 思わず胸を押さえてうずくまる。・・・いったあああ~・・・!今の・・・痛かったです、陶子さーん!!

 上手く呼吸が出来ずに、電話を持ったままでのたうち回る。それを知ってか陶子はしばらく待ってくれたようだ。

「・・・ええと・・・うん、まあそうかも知れないけど・・・」

 何とかそう言うと、彼女はよし、と叫んだ。

『まずそこを認めるところからよ!今のあんたは怯えてるの。それは仕方ないかもしれないけど、いつまでもそのままだと人生が楽しくないし、それを打開出来る素晴らしい機会が来てるのよ!それを認めなさい』

 素晴らしい・・かどうかは知らないが、確かに誠二を過去として忘れ去ると決心した私にはチャンスであるのは間違いない。

 だけど、せめて・・・。

 せめて彼が普通の男なら良かったのにね。こればかりはどうしようもないけど。高田さんだって別に自分で選択して整った外見に生まれたわけではないだろうし。31歳で彼女なしなんて、過去に女に苦労して避けてるのかもしれないわけで・・・。おお!

 天啓が降って来たかのようだった。


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