黒胡椒もお砂糖も
もうあの部長叱責はごめんだわ~!恐ろしかった。次やられたら仕事に対する愛情が萎えそうだ。
見込み客の書き出しは明日やらなければならないらしい。だから今日中に当たる場所を決めて、新年の挨拶の順番も決めて――――――
考えながら、コーヒーを淹れに給湯室へ向かう。
この大きなビルの18階を占めているうちの会社は、第1,2営業部と事務室と会議室が2つ、給湯室とお客様面会室がある。男女別のトイレと給湯室、それに喫煙室も。
その喫煙室から急に出てきた人影に、考え事をしながら歩いていた私はもろにぶつかった。
「わっ!」
「きゃあ!」
正面衝突してお互いによろめき、そのまま私は廊下の壁に背中をぶつける。そしてその拍子に、右目に入れたカラーコンタクトが外れて落ちてしまった。
「・・・あ!」
カラコンが―――――と言おうとした刹那、何かが潰れる音がした。パキって不吉な音が。
―――――あ。
タイミング悪く歩いてきた人物に、そのカラーコンタクトは踏まれてしまったらしい。
その足元だけを見ていた。
「尾崎さん、ごめんね大丈夫!?」
私とぶつかった相手は同じ第1営業部の広谷さん。私より年上で入社時期が近い人で、確かに彼女は喫煙者だった。ふんわりとタバコの香りがする。