黒胡椒もお砂糖も
私は情けない顔をしたままで、とりあえず返事をする。
「あ、大丈夫です。すみませんぼーっとしていて・・・」
そう言いながら、割れてしまっただろうカラコンの行方を目で探す。・・・踏んでいるのがやたらと大きい黒い革靴・・・うん?
そのまま視線を上げると、相変わらずの無表情で自分が何か踏んだらしいと靴の裏を確かめているのは高田さんだった
ぎゃあ。
「・・・何か、踏んだ」
ぼそっと呟くのが聞こえた。え?と広谷さんも高田さんの方へ顔を向ける。私はがっくりと肩を落として言った。
「・・・私のコンタクトです。背中を打った拍子に落ちてしまって・・・」
「え!?ヤダ、ごめんなさい!」
広谷さんが両手を口元に当てて謝るのに、いえいえ、と手を振る。
「お互い様ですからどうぞお気になさらず」
「いやでも、困るでしょう?眼鏡は持ってきてるの?」
おろおろと広谷さんが聞くのを高田さんは黙って聞いている。・・・おいこら、踏んだのはお前だよ、私は心の中で唸った。
「あ、別に度が入ってるわけじゃないんで、大丈夫ですよ」
「え?度入りじゃないの?」
私は仕方ないと広谷さんに自分の右目を開いてみせる。
「右目、色が違うんです。一々お客さんに聞かれるのが面倒でカラコンいれてただけなんで・・・」