黒胡椒もお砂糖も
広谷さんはじっと覗き込んで、あら、と零す。
「うわー、本当だわ。尾崎さんこっちはブルーがかった色なのねえ~」
綺麗な色よ!と手を叩く広谷さんに曖昧に微笑んでみせる。彼女の隣に突っ立つデカイ男が気になって仕方ないから早く逃げ出したかった。
「でもどうして右目だけ?」
「謎ですよね~。一種の奇形だと思うのですけど。生まれつきです」
外国人の祖父の遺伝です、とは言わない習慣がついていた。確かに肌の色は白めだし髪もアジア人のような艶はないけれど、パッと見物凄くアジア系なのだから。
「そんなわけで、大丈夫です。では、お疲れ様です」
改めて給湯室へ行こうとすると、広谷さんに腕を掴まれた。
・・・何よ~・・・。ため息を抑えて振り返る。
「でも弁償するわ!人のものを壊してしまったわけだし―――――」
「いえ、本当に気にしないで下さい」
「俺です」
ピタっと二人で動きを止めて振り返った。広谷さんと私の二人で、いきなり声を出した高田さんを凝視する。
「踏んだの、俺です」
・・・あ、ヤバイ。会話に参入されるのが嫌だったから早く逃げようとしてたのに・・・。泣きそうになった私だった。
広谷さんはここで、それもそうだと思ったらしい。彼女は珍しく美形をみても挙動不審にならないおばさまで、切り替えも早く、もう一度私にごめんねと謝るとスタスタと歩いて行ってしまった。