黒胡椒もお砂糖も
その後ろ姿を見送りながら、私はそろそろと後ろに下がる。
だけど同じように彼女を見送っていた高田さんがくるりと振り返って、口を開いた。
「――――――尾崎さん」
「・・・はい」
がっくり。
ああ~・・・新年一発目から捕まってしまった・・・。
大股で一歩近づいて、静かな声で高田さんは言う。
「おはようございます」
「・・・あ、おはようございます」
「すみません、コンタクト割ってしまって」
「いえいえ、どうぞお気になさらず・・・・」
顔の前で手をヒラヒラと振って、これで会話は終了ですよ、とアピールする。給湯室まであと10メートルほど。私は彼を見ずに会釈だけをして、走りたいのを我慢して歩く。
すると音も立てずに高田さんが後ろをついてきた。
・・・うぎゃあ。
どうしよう。給湯室に入るなりドア閉めたりしたら感じ悪いよね?いやでも別に悪くてもいいのか!そうしようか。それとも今から行き先を変えて・・あ、事務所に戻るのが賢明か!?
頭の中で忙しく考えているうちに、給湯室についてしまった。ドアを開けると中は無人。
・・・ダメ。密室でこの人と二人になる勇気はない。
入らずにドアをバタンと閉めてくるりと振り返った。
目の前にデカイ男。・・・・近っ!!