黒胡椒もお砂糖も


「・・・入らないんですか?」

 高田さんが見下ろしながら聞く。

「入りません。カフェインの取りすぎはよくないですよね。・・・えーっと、何かご用ですか?」

「あなたを探してました」

「・・・・・・・・そうですか」

 他に何と言えばいいのだ。私は事務所の方をちらりと見る。誰か、誰か来てくれないかな~。ちょっと誰もコーヒー飲まないの?皆何してるのよ~!

 無言のまま前に立って私を見ている高田さんを見ないままで、仕方なく聞いた。

「あの~・・・高田さんお仕事は?」

 高田さんは淡々と答える。

「流石に今日くらいは何も予定を入れてないんです」

「はあ。・・・あ、私は、そうだ!明日からの準備をしたいので、失礼しますね」

 そう言って歩き出すと、また後ろをついてくる。

 何なのよ~!刷り込みをした親鳥になった気分だ。雛にしては可愛くない男だが。

 廊下を半分ほど事務所まで戻った時に、我慢ならず立ち止まる。ヤツも後ろで立ち止まったのが気配で判った。

「高田さん」

「はい」

「どうして付いて来るんですか?」

「コンタクトの弁償をしたいな、と思いまして」

 やはり静かにそう答える。全く、一人でわたわたしている自分がバカみたいに思えてくる冷静さだ。


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