黒胡椒もお砂糖も
私は眩暈を感じながら下をむいたままで言う。
「弁償は結構ですから。もう気にしないで―――――」
「花束と」
・・・は?いきなり言葉を遮られて、思わず振り返ってしまった。バッチリ目があってうろたえる。高田さんは細めた瞳で私を見ている。急に汗が出だしたのを感じた。
「コンタクトの弁償、どっちがいいですか?」
「・・・は、花束?え?何ですか?」
体の前で両手をあわせて真っ直ぐ立つ男を見上げる。何を言われたのか判らなくて眉間に皺がよってしまった。
高田さんは微かに笑った。
「いいと言われても俺の気がすみませんから。明日から毎日尾崎さんの席に花束を置かれるのと今日コンタクトの弁償をされるの、どっちがいいですか?」
口があんぐり開きかけた。
「―――――――いえ、どっちも結構です!」
「遠慮せずに」
「遠慮じゃないです!本気で結構です!」
一度黙って、それから高田さんはふ、と笑う。さっきよりもちゃんと笑顔だった。
「じゃあ、花束にしましょう」
「弁償でお願いします!」
言ってしまってから、あ、と思った。
しくったあああああ~・・・・・。思わず額をパシンと叩く。何やってるのよ私ったら!こんな初歩的な誘導にのってしまうなんて―――――――