黒胡椒もお砂糖も


 座席を後ろに下げて少しだけ倒し、多分これがいつものリラックス風景なんだろうなあと思われる格好で、彼は食事を始めた。

 長い足を窮屈そうに折り曲げている。背が高いとこういう時にしんどそうだなあ~・・。

 寒いので外には出なかったけど、私は窓から大都会にしかない絶景を堪能する。

 ううーん、普段それなりに高い場所で仕事をしているとは言え、基本的にはパソコンと睨めっこだし、すぐ目の前には隣のビルの一面の青い窓だから、こういう景色は久しく見てないなあ~・・・。

 ほう、と満足して横目で高田さんを盗み見る。

 大きな口でドンドン食べている。やっぱり無表情だったけど、目はフロントガラス越しの景色を見ているようだった。

 ・・・もっとゆっくり食べたらいいのに。消化に悪いですよ~急いで食べると~。

 車の中に、ポテトの油の匂いが広がっている。その香りにつられて私のお腹が食物を要求した。

 ・・・ああ、何か買っておけば良かった・・・。

 小さかったけど、聞こえてしまったらしい。

「どうぞ」

 ハンバーガーを口にくわえたままでポテトをこちらに差し出してくれる。

 くそう、私ったら恥かしいヤツだぜ。

 若干赤くなった顔を髪で隠しつつ、ぼそぼそとお礼を言って一つつまむ。

 まだ温かいポテトは塩が効いていてカリッとしていて、美味しかった。

「おおー、美味しい・・・」

 呟くと隣から微かな笑い声がした。・・・ううう、益々恥かしいヤツだぜ、私ったら!いいのよ、どうせ色気より食い気よ。最近は特にそうなのよ~っだ。


< 150 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop