黒胡椒もお砂糖も
高田さんは口元を緩めたままで黙って椅子を元の位置に戻した。そしてギアをドライブに入れて、ゆっくりと車を動かす。
私もシートベルトをしめて真っ直ぐに座る。
「・・・高田さんて」
動き出した車の振動でホッとしたら、思わず言葉が出てしまっていた。
言い出しておいて口を噤んだ私を高田さんは視線を飛ばすことで促す。小さくため息をついた。言い出したんだから、最後まで言うべきよね、うん。
でもちょっと勇気がいる。ふう、と息をついて、私は肩の力を抜いた。
「高田さんて無口でいらっしゃるけど、どうやって営業してるんですか?」
「え?」
「・・・あの膨大な説明事項をしているとは思えなくて、ですね。・・・すみません、別にいいです」
言ったはいいけどバカか私はと自分で突っ込んでもそもそと体を動かす私を横目で見て、高田さんは淡々と答えた。
「―――――沈黙営業」
「へ?」
パッと隣を見る。下界に車を走らせながら、彼は言う。
「平林がそう言ってました、俺のやり方。詳しくはあいつに聞いてください」
・・・何だよ、君は教えてくれないのかい、ケチ。そう思ったけど、これでも譲歩なのだろうな。エリート営業にやり方を聞けることなんて滅多にない。平林さんに接触するのは遠慮したいけど、でもやっぱり高田さんの営業秘密を知りたい私だった。
沈黙営業?何だそりゃ。