黒胡椒もお砂糖も
2月戦速報を机に置き、私はコーヒーを淹れに給湯室へ向かう。
ヒール音を鳴らして歩いて行くと、廊下の突き当たりにいた平林さんが携帯を仕舞いながら顔を上げたのとバッチリ目があった。
―――――――あら、噂をすれば。
「あ、尾崎さん。お疲れ様、何だか凄く久しぶりだね~」
ひゅっと愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべて、平林さんが片手を上げる。・・・素晴らしい営業スマイル。
私は特に笑顔も作らず、歩きながら会釈をした。
「おひさしぶりです。1月は一度も会いませんでしたね」
私はエレベーターホールで見たんだけどね、という追伸は胸の中のみにした。どうして声かけてくれなかったの、とかいいそうな男だ。そんなこと突っ込まれたらいい訳が面倒臭い。
彼はあははは~と笑った。
「いやあ、忙しくてほとんど事務所に居なかったですから。ようやくちょっと時間が空きだして、今日久しぶりに自分の椅子に座りました」
本当に多忙だな、さすが支社ナンバーワンだ!毎日自分の椅子に長いこと座っている私はそう思って、あ、と声を出した。
「そうだ、2月戦も一位独走中、おめでとうございます」
パチパチと拍手もしてあげた、無愛想な私にしてはすごいことだ。平林さんはにっこりする。
「ありがとう。今回の記念月も、何とか乗り切れそうだよ。尾崎さんは調子はどうですか?」
「あら、私のことまで。えーっと、11月戦に比べたら大分マシな成績ですけど、平林さんのつま先にもなってませんね、多分」
彼は面白そうな顔をして近づいてきた私を見下ろす。