黒胡椒もお砂糖も
「じゃあ今回は広瀬部長の叱責からは逃げられそう?」
「それは大丈夫と思います」
良かったですね、と笑った。・・・この人、成績不良で詰められた経験とかなさそうだよね・・・少し恨めしい。
きっと詰められたこともないし、記念月に会社が企画する全部の施策に乗ってるはずだから、ノベルティでも自腹で買ったことなんかなさそうだ。旅行も行き放題、物も貰い放題。
まあ、それだけの努力をしているはずなんだけれども。でもきっと、元々運も良い人なんだと思う。努力だけではどうしようもないのが人生だ。
そして、不公平なのが人の一生なのだろう。
じゃあね、と言いながら行きかけた平林さんに、私はあ!と声を飛ばす。
「はい?」
振り返った平林さんに急いで言った。このチャンスを逃したら、次にいつこの超多忙の営業マンを捕まえられるか判らない。
「あの、御多忙なのは承知の上で言うんですけど・・・」
「うん?」
「教えて頂きたいことが」
「何ですか?」
首を傾げた平林さんに近寄って、小声で言う。
「沈黙営業って、なんですか?」
彼は目を見開いた。そして少し考え込んでいる様子だった。
ボソッと小声で言う。
「・・・それは、俺が篤志につけた・・・」
「そう、それです。何か知りたかったら平林さんに聞けって・・・」