黒胡椒もお砂糖も
普段はこういうのはチームやペアでやるのだが、皆2月戦で忙しいので、暇な私は一人でやることにした。
チラシを持って、名刺をともに花吹雪のように配りまくる。損をしない話だと人間は聞き入れやすくなる上に、投資信託を扱っていたときのような「そんな名前聞いたことない」という返事が個人年金に関しては皆無だ。
実にいい、やりやすい作戦だった。何でもっと早く思いつかなかったのだろう、私。
これはうまく行き、出入りしている昼間の職域から2件、既に自分のお客様になってくださっている方から1件頂き、2月の下旬には3月分で1.5件の成果となった(個人年金は保険会社の儲けが少ないので件数は稼げない)。
うふふふ~と曇り空の下会社に戻る私は笑う。
満足して自席に向かう私を捕まえて、これを2月分にしてくれないかと副支部長が泣きついて来た。
「お願い~!そしたら尾崎さんも施策にのれるのよ!2月戦のご褒美旅行、行きたいでしょ?」
・・・行きたくないです。
心の中で呟いて、私は曖昧に笑う。
記念月はノルマが増える分、ご褒美の施策があるのだ。自分の事務所からそれに何人のったかで、上司が参加出来るか出来ないかが決まる。それに参加出来ない場合、上司は本社や支社長からこってり叱責を受ける上、次回の記念月での挽回を強力に求められるのだ。
それは判ってるけど、嫌です。
他のことでは出来るだけ協力しますけど、旅行には行きたくないんです!
「副支部長、もう3月分で入力して提出しちゃったんです。すみませんが」
私が言うと、折角の綺麗な顔を情けなく歪めて副支部長がへたりこむ。