黒胡椒もお砂糖も
出た声は驚きの余り掠れていた。私が本当に驚いているらしいと判ったようで、ちょっと弓座さんの瞳が揺らぐ。だけどそのままで続けた。
「去年の暮れくらいから尾崎さんてあの二人とよく話てますよねえ。食堂でも一緒にいたり。尾崎さんが付きまとってるって――――――」
「ないない!ないっす!」
両手を顔の前でバタバタ振る。私から引っ付いて行ったことなんて本当にないもん!
「でも嬉しそうに話してるって皆言ってますよ。成績2月にまわして、旅行施策も一緒に行けばいいんじゃないですか?第2営業部とは合同なんだしぃ~」
・・・・この子は平林さんか高田さんか、どちらかのファンなわけだな。私はそう思って、あーあ、と小さく聞こえないように呟く。
そうね、じゃあ一緒に旅行いって3人で飲もうかな、とか言えば更に彼女の機嫌は悪化するのだろう。
面倒臭い・・・くそ、だから無駄に愛嬌のある男も美形の男も苦手なんだよ!彼等が悪いわけではないにせよ、それに付随してくる面倒臭いことに巻き込まれるのが嫌なのだ。
私は急いで頭をめぐらせる。ここをうまく偶然として処理するのは難しい。ならばあれを利用しよう――――――――
私は向き直って、唇を尖らせている弓座さんに言った。
「高田さんが私のコンタクトを廊下で踏んでしまったことがあって、それを申し訳ないって謝ってくれたことはあったけど」
だから食堂で話してたんだよ、と頭の中で話をひっつけてくれる事を期待して途中で区切る。
彼女はそうしたようだった。ちょっと表情が和らいだのを観察する。よしよし。