黒胡椒もお砂糖も
また雪が降ってキンキンに冷えた2月が終わり、3月に入る。
今回の第1営業部からの旅行施策は10人が入賞で、上司二人も無事に旅行へ参加出来ることになったらしい。
朝礼でお礼を言って頭を下げる支部長と二人の副支部長は笑顔満面だった。
それに拍手をしながら私はホッとため息をつく。
・・・ということは、明日から二日間、上司も不在だし、平林&高田ペアも不在ってことだ。
やったー!
2月戦の最中、結局一度も高田さんとは言葉を交わしてない。
だけれども、あのエレベーターの中での指での愛撫や廊下ですれ違う時に彼と交わす視線、下界で横断歩道の信号待ち、顔を上げたらあちら側に高田さんが居て、目があったときにゆっくりと笑顔になったりとか、そんな小さなことが積み重なって大きくなり、私の頭の中には彼専用の空間が作られた。
じわじわと侵略されていくようだった。
小さな視線や笑顔や温度はそこに仕舞われて、夜に酔っ払ってテレビを見ている時とか、一人の部屋のドアを開けた時、ふと空を見上げた時などにそこから記憶が流れ出てくる。
あの綺麗なアーモンド形の両目で私をじっと見る。
それは最初の頃、居た堪れなさを私にもたらしたけど、今では震えと共に温かさが生まれるのだ。
お腹のところ、じんわりと。ゆっくりと体が熱を持って、私はそれから目が離せない。
彼が、見ている。
私は、震える。
そして何とか背中を向けて逃げる。
溶けてしまうかもしれない、このままだと。そんな風に思って、そのバカさ加減にあとでうんざりするのだ。
溶けるかっつーの。人間だよ私は!