黒胡椒もお砂糖も
2、離婚記念日のお祝い
去年、離婚して一年目の春の日は、呆然として公園で過ごしていた。
まだ実家で暮らしていたから家では泣けないと思って外に出たんだった。父や母の、痛々しい視線も鬱陶しかった。彼等の結婚指輪を見たくなくてやたらと天井を眺めていたような記憶もある。
だけど、結局あの日は泣かなかったんだな。
ただ一年が経ったんだって公園のブランコに座りながら思っただけだった。
暗い一年だったなあ~と思って、揺られていただけだった。
他の日は誠二のことを思い出して涙腺が自動的に緩んだものだったけど、あの日はうるっともこなかった。
まだ梅から桜になる前で、木蓮も咲いてなかった。
風も冷たくてコートもマフラーも手袋も必要だった。寒いなあと思いながらブランコでボーっと初春の空を見ていた。
私は温かいコーヒーを両手で持ってそれを思い出す。
今年は2年目だ。これはもう記念日にしてしまおう。だって、アイツは浮気してたんだったんだから。もう綺麗な思い出にしようと努力する必要がない。
優しかった夫の幻想は崩れた。彼は彼なりに私を好きではあったのだろうが、貞操を守るほどの愛情ではなかったわけで。
現実は、やっぱり現実だった。ハードでビター。そりゃそうか。離婚するのは金も時間もかかる。誠二がそれをするのだって、好きな人が出来たってだけでは足を踏み出せないものだよね。
大きな理由があったのだ。彼は完全に、他人に戻って他の家族を作った。
それを私が知らなかっただけ。