黒胡椒もお砂糖も
鏡の中の私は、この2年間で一番輝いていた。こんなに綺麗な自分を見るのは初めてだわ、そう思った。
やれば出来るじゃん、私。
離婚して辛い日々を送り、そこから抜け出した今、表情は落ち着いていて、瞳は少し暗い色を宿して濡れている。前よりも魅力が増したとしたらそこだな、と自分で思った。
辛い経験だって身について光ることもあるんだなって。
壁の時計をチラリと見て少し慌てる。もう6時半だ。行かなきゃ。
ドレスの上にトレンチコートを羽織り、まだ冷える夜用にとストールをマフラー代わりに巻く。
高くて素敵なヒールを履いて、ウキウキと出発した。電車の中で顔がにやけないようにするのに無駄に力を使った。
でもいい気分というのは伝染するらしい。前に座った塾へ行くのだろう学生と目が合った時につい微笑んだら、彼女の顔のこわばりが解けてにこりと笑ってくれたのだ。
それも嬉しかった。
ヒールでテンポ良く歩き、都心の、有名で高級なホテルの最上階のバーに、足元がふらつかないように入っていく。
背筋を伸ばして、膝を曲げてはいけない。ヒールを履いて格好悪い歩き方は出来ない。
何たって待ち合わせは素敵な女友達だ。ボーイさんに案内されて歩いて行くと、照明を落としたウェイティングバーには着飾った陶子が。
・・・わお。心の中で絶賛する。