黒胡椒もお砂糖も


 真紅のストレートドレスを着て、栗色の長い髪をまとめて上げている陶子はとても綺麗だった。80年代のイタリアの女優みたいだ。

 ちょっとちょっと、男性のみなさーん、いい女がこんな所に落ちてますよ~って、拡声器で世界中に触れ回りたい。皆見る目ないな~!どうして陶子は独身なのだ!

 彼女に声を掛けないのは犯罪じゃないの?と思うくらい素敵だった。

 バーテンダーと小さな声で話していた陶子が振り返る。私はにっこりと笑って手を振った。

 彼女の目が私の全身を見る。次の一瞬で瞳に賞賛の光を認めて喜んだ。

「素敵よ、美香!あんた、ようやく完全復活ね!」

 手を伸ばす女友達へ近づく。にこやかにバーテンダーが微笑みをくれる。うーん、全部、素敵!

「ありがとう、お洒落するのが楽しかったわ。久しぶりにそんなこと思った」

 陶子はにっこりした。

「そうよ、やっぱり美味しいものは食べたいし、お洒落もしたい。それでこそ私達よ!」

 そしてするりとスツールから立ち上がり、私を促した。

 案内されて夜景見渡す窓際のソファーに座る。

 上質な空間、洗礼された従業員達と、素晴らしいBGM、隣には着飾ったゴージャスな女友達。

 まだアルコールを口にする前から酔うような感覚で、既に足元はふわふわとしている。

 クスクスと笑う。何を見ても聞いても可笑しかった。

 箸が転げても笑う、とか言う、あれだあれ。まさしくその状態だった。


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