黒胡椒もお砂糖も


「一体何しに会社に来てるんだ!!」

 凄い大声で怒鳴りつけられて、膝が震える。下を向いて潤んだ瞳を見せないことに精一杯だった。延々と浴びせられる罵声に、耳の奥ではキーンという音が鳴っている。

 社会人だ、まさか、泣けない。頑張りました、では意味がないのだ。頑張ってるのは皆一緒。結果を出さなきゃやらなかったも同義だ。

 他の9人がそうやっているのを見て私も真似をした。ただそうやって頭を垂れ、嵐が過ぎるのを待っていた。


 終わったときには疲労の蓄積で呼吸困難になるかと思ったほどだった。

 今年一杯のアポノルマを加算されて解放された私は、昼の職域訪問をサボって大きな公園のベンチでぼんやりしていたのだ。

 もう、今日は無理・・・。仕事、ちょっと休憩です、と自分に呟いて。

 平常心に戻すことすら、難しい。そのくらいのショックを全身で受けていたのだった。

 11月に入ったばかりで風もそんなに冷たくなくて、いい天気だった。

 耳の中でさっきまで喚いていた部長の声がまだ木霊していたけど、それは極力無視して風に揺れる緑を見詰めていた。

 はあ~・・・と息を漏らす。

 それもサラサラと通り過ぎる風が運んでいく。マイナスイオン、出てるわ~。都会でも、やはり公園の緑は結構な力を持っているんだなあ~・・・。

 いいなぁ、公園の近くに引っ越しでもしようかな。

 親を喜ばせる為だけに始めた一人暮らしで、深く考えずに決めた1DKのアパートはゴミゴミした駅前にあった。狭い上に薄暗く、光も風も入らない。


< 18 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop