黒胡椒もお砂糖も


 陶子は美人だ。そのつりあがった猫目は大きく、口幅も広くて本当に楽しそうに笑うのだ。笑顔が美しく、ついつられて周りも笑ってしまう、そんな女性だった。

 彼女が本腰いれて微笑むのを久しぶりに見た。

 私は一歩下がって平林さんを眺める。いつもの愛想の良い笑顔。だけどその中に、確かに喜んでいる気配を感じ取ってちょっと面白かった。

 うーん、美人の威力はすげーな。まるで他人事みたいに二人を眺めていた。

「尾崎さんも、ごめんね、無理に押しかけて」

 並んで座りながら平林さんが言う。私はあ、そうだ!と声を上げて携帯を見せた。

「・・・これは、私でなく、この子が打ったんです、勝手に!そこは誤解なきよう頼みます。勿論平林さんの参加は歓迎しますけど」

 平林さんはシングルモルトを注文してからこちらに向き直り、あははと軽く笑った。

「ああ、そうだと思いましたよ。これって尾崎さんのテンションじゃないなーって読みながら思ってましたから」

 だってハートマークでしょ、ビックリして携帯落とすかと思った、彼はそう言う。

 隣で陶子は知らん振りをしていた。

「平林さん、3月分終わったんですか?」

 一応確認と思って聞くと、はいと頷く。・・・やっぱりか。羨ましいほどの仕事の早さです・・・。誰よりも早く3月に入ったのに、まだ終わってない私って・・・。

 勝手に凹んでいると彼の低い声が聞こえた。

「審査結果も良好で全部オッケー出たんで、今日で終了にしました。それで、沈黙営業の話をまだしてないな、と思い出して」


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