黒胡椒もお砂糖も
・・・はあ。それはどうも。
私は自分のキールを飲みながら、ちょっとふらつく視界で夜景を見渡す。
ガラスには陶子と私と平林さんが並んで映っていた。
うーん、何か不思議な光景だな。
「さっき美香から聞きました。私も興味あるなー、個人営業もしているので。売り込みの秘訣を聞ける機会はウェルカムです」
陶子が言うと、平林さんはあははと笑った。
「参考になるかは判りませんよ。無口な高田だからこそ出来る手法ですからね」
彼の注文したものがきて、3人で乾杯をする。長い指で重厚なグラスを持ってくくっと流し込んでいた。
お酒、強そうだなあ~・・・私は平林さんの横顔を見てそんなことを考える。
時計は8時半をさしていた。この人晩ご飯食べてきたのかしら。すきっ腹にウィスキーはキツイと思うんだけど。
どうぞ、とチーズやチョコレートを勧める。
「沈黙営業ってくらいなんですから、やっぱり喋らない・・・んですよね?」
私が言うと、グラスを置いて平林さんは簡単に頷いた。
「はい。それです」
「・・・だって、保険は説明なしでは何も判らないでしょう?365日そればっか考えている私達だって完璧に理解出来てるかと聞かれたらノーですよ」
説明なしで契約が貰えるとは思えない。いくら彼が美形でもそれでは無理だろう。それに平林さんは高田さんが外見を利用している的な言い方はしてなかったし。