黒胡椒もお砂糖も


 ・・・そうか、環境も悪いんだな、今の私は。通り抜けていく風に髪を揺られながら思った。

 次第に呼吸も落ち着いてきて、私は漸く凝り固まった体を伸ばす。ベンチの上でううーんと伸びをして、目を閉じ、人間に戻った~などと言っていた。

 すると声が飛んできて、その伸びをした格好のままで固まってしまったのだ。

「解放されてるねー、尾崎さん」

 一瞬止まってしまったけど、その声の主を認識すると同時にパッと体を起こした。

「―――――平林さん?」

 勢い余って眩暈がする。

 ぐるりと周囲を見回すと、キラキラと眩しい太陽の光に目を細めた、ミスター愛嬌がこちらに歩いてきつつあった。

 嘘でしょ、まさかの同僚と遭遇・・・。職域訪問サボりがバレた・・・。ガックリと私は肩を落とした。

 彼はそれに気付かない様子でスタスタと真っ直ぐ近づいてきて、いつもの笑顔で私に話しかける。

「広瀬部長が来てたらしいねー。うちまで怒鳴り声聞こえて来てたよ。すっげー迫力。聞いてるだけでびびった~」

 軽やかにあはははと笑っている。

 ・・・いや、笑えないほど怖かったんですけど・・・。

 会社内でなく他に誰もいないからか、彼はいつもの敬語を消して話していた。よく考えたらこの人、同じ年だったっけ、とぼんやり思う。

 私はひきつりを隠して下を向く。そして十分に表情がマシになったと思えてから、顔を上げた。


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