黒胡椒もお砂糖も
第6章 口元には微笑みを
1、途中停止はしない
「・・・はい?」
私はつい瞬きをする。一瞬で耳の中で響いていた鼓動もすっ飛んだ。
高田さんは私の手を引いて自分の隣の席に座らせると、微笑したままで言った。
「知ってましたよ、尾崎さんが俺を好きなこと」
ぶっ・・・。ごほごほと私は咳払いをする。いやいやいやいやいや!どういうことよ、それ!?
ちょっと、緊張してたのもどっかに飛んでいっちゃったじゃないのよ~。何よこの冷静な上から目線。ムカつく、かなりムカつく~!
コホン、ともう一度咳をして眉間に皺を寄せた私に高田さんは静かに言う。
「えらくお洒落してますね」
「ええ、まあ・・・」
まだ拗ねた気分でクラッチバックを机に置こうとして、ハッと気がついた。
「・・・あ、ストール忘れてきた」
「どこに?」
高田さんが聞くのに、ガッカリして私は答える。
「〇〇ホテルです・・・。今日はあそこのバーで女友達と飲んでまして」
もう~・・・急いでここにくることばっかり考えて、ストールを忘れてきた・・・。詰めが甘いわ、私。しかも何か必死な感じをみせてしまったのが嫌だし・・・。
汗までかいちゃったぜ。
ウダウダ考えていたら、高田さんの声が聞こえて顔を上げた。
「そこへ、平林が行ったんですか?」
―――――――うん?
「・・・どうして知って――――――――」
その時目の前で、うちの会社を代表するイケメン営業である高田さんが、ハッキリと笑った。
瞳がキラリと光る。