黒胡椒もお砂糖も
―――――――まさか。
「もしかして、私を罠にかけたんですか?」
二人で?
目を細めて睨む私に、まだ綺麗に笑ったままで高田さんは両手を軽くあげる。
「・・・まあ、そうとも言えますけれど。実は、賭けてたんです」
「は?」
「あなたがこれで来なかったら、諦めようと」
「――――――――」
「あんまりにひたすら尾崎さんが逃げるから、もう無理かなと思い始めていて。・・・だけど今晩うちの営業が皆出払うことが偶然に判ったので、ちょっと利用させてもらったんです」
え、と思って改めて周りを見回した。
今晩、皆居ないって判ってたんだ―――――――
するりと手を伸ばしてもう一度私の右手を掴み、彼が言う。
「・・・でも、尾崎さんは俺に会いに来た。それだけでなく・・・」
私から、告白まで。・・・・ああああ~・・・・。くらりと来たけど手が掴まれてるから身を引くことも出来ない。
罠にかかった私とそれを喜ぶ高田さん。
平林さんにメルアドを聞き出させて、タイミングを窺っていた。そしてチャンスだと思って彼を遣わせて・・・・見事、今は二人っきりで事務所の中。
いつも通り静かな声で、でも満足気な響きを重ねて、高田さんが言った。
「舞台設定も、営業の大事な仕事ですよ」