黒胡椒もお砂糖も


「・・・平林さん、職域訪問は?」

 もう面倒臭くて私も敬語は止めた。大体、この人に壁を作っても無駄なのだ。いつでもアッサリとそれは壊されるのだから。

 彼は少し驚いた表情をしたけど、やがてニッコリと笑う。

「サボり。この後アポが微妙な時間に入ってるし、もう今日はいいかと思って」

 そう言って、当然のように誘ったのだ。非常にさらりと流れのままに。

「尾崎さんも職域サボりだったらお昼行かない?アポ前にちょっと腹にもの入れておきたいんだけど」

 ―――――――何故私があなたと一緒に。

 そう思ったけど、思った時には既に頷いていた。自分でビックリした。

 え!?いやいや違うでしょ、私、行かないでしょ!?って。

 だけどじゃあ行くよ~と平林さんは背中を向けて歩き出してしまってたし、グダグダ考えてみても後の祭りだった。

 そこから大声で断りを入れるなんて芸当、私に出来るとは思えない。

 再びがっくりと肩を落としてオアシスだった公園を出る。

 ・・・私のバカ。ここでカ〇リーメイトでも食べようと思ってたのに・・・。そして十分マイナスイオンを吸収したあと、おもむろに午後の営業を頑張るつもりだったのに・・・。

 何の魔法を使ったんだ、あの男。あれが愛嬌のよさってやつなんだな。一瞬にして、こちらの防御を緩ませる。営業職は天職だな、彼の。

 口の中でブチブチ言いながら彼についていくと、この素敵なカフェに入っていったんだった。


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