黒胡椒もお砂糖も


 だけど椅子に座った状態で、その椅子ごと引き寄せられていて、彼の両手は私をガッシリと掴んでいる。片手は腕を、片手は頬を。

 だから逃げられなかった私は、久しぶりの感触を唇に感じる。温かくて柔らかいそれを何度か押し付けて、至近距離で彼は私を見る。

 流石にじっと目をあわせることなんて出来ずに、私は瞼を閉じて段々深くなるキスを受け入れた。

「――――――キール」

「・・・へ?」

 少しだけ顔を離して彼は笑う。

「尾崎さんは、キールの味がする」

 ・・・そりゃあさっきまで飲んでましたから。呟きは声にならなかった。そのまま舌まで入ってきて、眩暈が私を襲う。

 息が、出来ない。

 貪るというほどではない、落ち着いていて丁寧で、だけど熱い熱いキスに、私は理性が遠のくのを感じて急いでその端っこを捕まえた。

「・・・たっ・・・高田、さん!」

「はい?」

「・・・す」

「・・・うん?」

 キスを止めてくれないから途切れる言葉を必死で出す。ちょっと待って~、理性が崩壊する~!

 一息吸うと同時に言った。

「ストールを取りに行かなきゃ!」

 暫くの間をあけて、彼がくくくと笑った。

 そして私を捕まえていた両手を離す。

「判りました」


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