黒胡椒もお砂糖も
私の回想はそこで解ける。魔法使いが戻ってきたからだった。
「ごめんね、お待たせ」
ヤツはニコニコ笑いながら、携帯をテーブルに置いて言った。
「料理注文しといたから。頑張って食べて」
「え?」
あたしは呆気に取られる。・・・注文しといたって、そんな。どうして勝手にそんなことするのよ~!
流石に憮然とした表情が出たらしい。それを見て、平林さんはまた笑った。
「前から思ってたんだよね。尾崎さん、ちゃんと食べてないでしょう」
直球だな、おい。私はムスッとしたままで椅子に寄りかかる。平林、実は俺様キャラか?
不機嫌に黙ったままの私の前で、相変わらずニコニコしたままで彼は言った。
「一度聞いてみたかったんだよね。どうしてそんなに壁を作ってるの?」
「・・・作ってないです」
「残念なことに、俺は鈍くないんだ」
無愛想な返事にさらりとそう返して、平林さんは飲み物を持ってきた店の人に微笑みを送る。私は彼の厚かましい返事よりも、その飲み物に仰天した。
「―――――平林さん?まさか、飲むんですか?」
目の前においてあるのは生のジョッキだ。多少こじゃれてはいるけど見まごうことなきこれはビール。しかも、二つ。つまり私の分もあるのだろう。
だって、まだ昼だよ?それにこれからアポって言ってなかったっけ?
驚く私の反応を面白そうに見て、ヒョイをジョッキを持ち上げた彼は乾杯と言った。