黒胡椒もお砂糖も


 私の回想はそこで解ける。魔法使いが戻ってきたからだった。

「ごめんね、お待たせ」

 ヤツはニコニコ笑いながら、携帯をテーブルに置いて言った。

「料理注文しといたから。頑張って食べて」

「え?」

 あたしは呆気に取られる。・・・注文しといたって、そんな。どうして勝手にそんなことするのよ~!

 流石に憮然とした表情が出たらしい。それを見て、平林さんはまた笑った。

「前から思ってたんだよね。尾崎さん、ちゃんと食べてないでしょう」

 直球だな、おい。私はムスッとしたままで椅子に寄りかかる。平林、実は俺様キャラか?

 不機嫌に黙ったままの私の前で、相変わらずニコニコしたままで彼は言った。

「一度聞いてみたかったんだよね。どうしてそんなに壁を作ってるの?」

「・・・作ってないです」

「残念なことに、俺は鈍くないんだ」

 無愛想な返事にさらりとそう返して、平林さんは飲み物を持ってきた店の人に微笑みを送る。私は彼の厚かましい返事よりも、その飲み物に仰天した。

「―――――平林さん?まさか、飲むんですか?」

 目の前においてあるのは生のジョッキだ。多少こじゃれてはいるけど見まごうことなきこれはビール。しかも、二つ。つまり私の分もあるのだろう。

 だって、まだ昼だよ?それにこれからアポって言ってなかったっけ?

 驚く私の反応を面白そうに見て、ヒョイをジョッキを持ち上げた彼は乾杯と言った。




< 21 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop