黒胡椒もお砂糖も


 ―――――――はあ、そうですか。私は頷く。話がどこへ向かっているのかが判らずに、まだ変な顔をしていた。

 高田さんはゆっくりと話す。

「あいつの赴任先に、稲葉が新人の研修教官をしていた時の教え子がいるって判ったんですが、周りから見ればどうやら稲葉はその子が好きらしいのに、本人はまるで自覚がないんです」

 ―――――――ほお。中央の稲葉に思い人が!それはそれでかなりのニュースだよね・・・多分、弓座さんや支社の大嶺さんに言えば手を叩いて喜ぶはず。

 私はまた黙って頷く。

 彼は手で額をこすりながら言った。

「・・・皆で、お前はその子が好きなんだなって言ってる間も、稲葉はキョトンとしていた。何で自分では気付かないんだって。それで散々笑ったんですが、その時に気がついたんです」

 手で隠れてない片目で私を見た。とても柔らかい視線だった。

「・・・ああ、そうか、俺も尾崎さんが好きなんだって」

 ―――――――――・・・・ええっ!?

 私は更に首を捻る。

 目の前で超色っぽく微笑む高田さんの肩を掴んでガクガク揺さぶりたかった。

 結局判らないんですけど、それでは!

 顔に出ていたらしい。あはははと珍しく声を出して笑い、高田さんは説明を始めた。

「一昨年の春、合同朝礼で初めて見た時、やたら雰囲気の厳しい人だな、と思った。その触らないでって感じが、離婚して荒れて一番酷かった時の平林に似ていた。だから、気になったんです」

 私は目を見開いた。


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