黒胡椒もお砂糖も


「何驚いてるの。普通だよ、こんなの」

「・・・普通ではないのではないですか?」

 平林さんは軽く笑って、さも美味しそうに目の前でビールを煽っている。

 ビール・・・久しぶりに見たな。もう全然飲んでないから、どうして私の前にビールが置いてあるのかが不思議でならない。

 お酒は飲めるし好きだったから以前はよく飲んだけど、離婚騒ぎでお酒から遠ざかってしまったのだ。単に、娘が酒に頼るのを恐れて親が遠ざけたんだけど。一時私の実家では、アルコールというアルコール全てがなくなったのだ。両親が一切を捨ててしまって。

 それはまあともかく、平日の、営業時間中にアルコール摂取。証券会社では勿論そんなことなかった。保険会社、これが普通なのか!?それともこの人はいつでもこんなことしてるの!?

 頭の中で激しく疑問が沸き起こる。だけどそれを質問する暇はなく、今度は私の目の前には次々とお皿が並んでいった。

「・・・うそ」

 ピザ、フライドポテト、大盛りのチキンサラダ、蜂蜜トースト、魚のトマトソース炒め。

 何だこの大量の料理は。油の塊のような内容の数々は。若干の眩暈を感じてつい額に手を当てる。注文した男はさっそくポテトに手を出しながら、軽やかに言った。

「ほら、尾崎さんも食べて」

「ええと・・・私は結構です」

 見ただけで、胃が拒否した。匂いだけで既にお腹いっぱいだとさ。片手を額にあてたままで言うと、彼は軽やかな口調のままで言う。


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