黒胡椒もお砂糖も


 4月になった。

 3月最後の合同朝礼で営業をやめることを発表した高田さんは、かなり惜しまれつつも(一番惜しんだのは勿論第2営業部の支部長だ)最後まで人前では笑わずに無表情で、第2営業部を卒業した。

 平林さんは相変わらず営業職を嬉々として続けていて、最近ではスーパー営業からモンスター営業へと呼び方までパワーアップした。

 親の敵みたいに契約を取りまくっている。監視役である高田さんがいなくなったことで、休みの日も思う存分アポを入れられるからね~と、一度廊下で会った時に笑っていた。

 私はため息をついて、過労には気をつけて下さいね、とだけ言った。

 私が高田さんと結ばれたことを陶子は泣いて喜んだ。

「ちょっと強引かな、と思ったんだけど、平林さんもやりましょうってのったから部屋取っちゃったの」

 そう言って、泣きながら笑っていた。

 私は陶子にも平林さんが出会いとならないかなーってちょっと期待したのだ。

 だけど、二人はいい飲み友達になったようだった。

「ハードワーカーは自分だけでいいのよ、美香」

 そう言って陶子はぺろりと舌を出す。

 月に1,2回、4人でご飯に行って、平林さんと陶子がマシンガンのように話すのを私は爆笑しながら聞く。隣の席では高田さんが口元に微笑を浮かべて黙々とご飯を食べる。

 そんな楽しい時を過ごして、夏が来た。

 会社ではビックニュースが駆け巡っていた。何と、‘中央の稲葉’が結婚するらしい!

 高田さんも平林さんも仲が良いから結婚式に呼ばれているようだった。ということは、勿論生きた伝説楠本FPも参加だろう。


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