黒胡椒もお砂糖も
「尾崎さんも式には呼ばれてるんだよ。聞いてないの、高田から?」
驚きで口が開きっぱなしになった。
・・・何だとー!?聞いてねえよ!!
どうやら高田と付き合っている噂の彼女が見たいから、二人で来てくれと中央の稲葉本人が言ったらしい。招待状は改めて送るからと。
うっそ・・・。いや、私、無理ですから。あなた達の中には入れませんから!って。
楠本さんも稲葉さんも平林さんもその他大勢の支社長や営業部長や支部長や課長達が集まる結婚式場で、あれが高田の彼女か!なんて目で見られたら、すぐにその場で2メートルくらいの穴を掘って埋まってしまいたい気分に襲われるだろう。
そんな・・・私が可哀想過ぎる。
だけど着々と時間は進み、夏が終わるころ。
噂の‘中央の稲葉’と、その彼女、‘玉ちゃん’の結婚式が森の中の教会で行われた。
散々足掻いたけど決定事項だったので結局参加した私は、その日一日中幻の中にいるみたいな感覚で過ごした。
甘え顔で有名な稲葉支部長は写真で見るより断然いい男で、正装した姿は完璧、まさしく惚れ惚れする端整さだった。
彼の垂れ目が優しく、嬉しそうに彼女を見ている。シンプルなウェディングドレスを着た彼女は頬を染めて、ひたすら楽しそうに客の間をうろうろと走り回っていた。
ちっともじっとしていない花嫁に皆が笑う。
彼女のお母さんの涙に貰い泣きし、楠本夫婦に声を掛けられて動転し、それを平林さんに見られて笑われ、心の中で彼に呪いをかけた。