黒胡椒もお砂糖も
「駄目だよ、食べないと」
「ほっといてください」
「ダイエットしてるの?」
イラついた。彼を睨まないように大きくため息をついて気持ちを落ち着ける。
ああ・・・どうしてついて来てしまったんだろう。全く、こんなに押し付けがましくてムカつく男だったとは――――――――
私は不機嫌に首を振る。
「・・・ダイエットはしてません。食事に興味がないんです。すみませんが、私―――――」
失礼します、と言う前に、彼の言葉が突き刺さってきた。
「ダイエットじゃなきゃ、傷心か。離婚でもしたの?」
ハッと呼吸が止まった。
思わず真顔で前の男を見詰める。それを平然と見返して、うちの会社が誇るスーパー営業はまたビールを飲んだ。
そして私から視線を外さずに、ジョッキを置くと言った。
「判るよ。雰囲気、態度、表情。それに―――――俺も離婚経験者だからね」
え?
見詰めていた目を見開く。
今何て言った、この人?
私が呆然としている間にも平林さんはピザを食べ、サラダをつつき、ポテトを口に放り込んだ。
一つのフォークが華麗に舞う。
「ほら、どうぞ」
小皿にとりわけられたそれを押し付けられて、私は呆然としたままで口に含んだ。確実に無意識だった。サラダに掛かっているシーザードレッシングが舌をピリリと刺激する。