黒胡椒もお砂糖も
つい、もう一口チキンサラダを突っ込んだ。
平林さんはそれを見て頷きながら、そうなんだよ、と小声で言った。
「俺もバツ1なんだよ。知らなかった?」
思わず首をぶんぶんと振る。
・・・知らなかった、平林さんが結婚していたことがあるだなんて。誰ともお昼を食べない私にそんな情報は降りてこない。
でもそうだったんだ。確かに私と同じ年だし、男性でも結婚の早い人はいる。現在が独身でも過去は違うってこともあるよね・・・。
ナプキンで口元を拭きながら、平林さんが淡々と話す。
「あれはキツイ経験だよね。覚悟して別れるけど、その後でやっぱり結構な衝撃があったな。尾崎さんを見ていて思ったんだ、もしかしてってね」
私は言葉を押し出そうとして、口の中のチキンが気になる。邪魔・・・邪魔だよ、鳥!こんなに話したいと思ったことが久しぶりな私は、口の中の物を何とかしようとジョッキを掴んでビールを流し込んだ。
「うっ・・・!」
炭酸が喉を刺激して思わずむせそうになったけど、何とか堪える。・・・ビールって、こんな味だったっけ?こんなに苦かったっけ?
思わず混乱した頭で手に握ったジョッキを見たけど、それよりも今は平林さんに聞きたくて一人で大変だった。頭の中が嵐だ。
「ひっ・・平林、さん、も・・・」
「はい?」
サラダとビールを完全に飲み込んでから、言い直した。
「平林さんも食欲なくなりました?」