黒胡椒もお砂糖も


 つい、もう一口チキンサラダを突っ込んだ。

 平林さんはそれを見て頷きながら、そうなんだよ、と小声で言った。

「俺もバツ1なんだよ。知らなかった?」

 思わず首をぶんぶんと振る。

 ・・・知らなかった、平林さんが結婚していたことがあるだなんて。誰ともお昼を食べない私にそんな情報は降りてこない。

 でもそうだったんだ。確かに私と同じ年だし、男性でも結婚の早い人はいる。現在が独身でも過去は違うってこともあるよね・・・。

 ナプキンで口元を拭きながら、平林さんが淡々と話す。

「あれはキツイ経験だよね。覚悟して別れるけど、その後でやっぱり結構な衝撃があったな。尾崎さんを見ていて思ったんだ、もしかしてってね」

 私は言葉を押し出そうとして、口の中のチキンが気になる。邪魔・・・邪魔だよ、鳥!こんなに話したいと思ったことが久しぶりな私は、口の中の物を何とかしようとジョッキを掴んでビールを流し込んだ。

「うっ・・・!」

 炭酸が喉を刺激して思わずむせそうになったけど、何とか堪える。・・・ビールって、こんな味だったっけ?こんなに苦かったっけ?

 思わず混乱した頭で手に握ったジョッキを見たけど、それよりも今は平林さんに聞きたくて一人で大変だった。頭の中が嵐だ。

「ひっ・・平林、さん、も・・・」

「はい?」

 サラダとビールを完全に飲み込んでから、言い直した。

「平林さんも食欲なくなりました?」


< 24 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop