黒胡椒もお砂糖も


 彼は前の席で、うん、と頷いている。

 私は今度はポテトを一つ口に入れた。変な勢いがついていた。塩味が口中に広がる。飲み物が欲しくなり、またビールを飲む。

「何だか生活の全部に疲れてしまって、今から考えたらちょっと鬱だったかも、と思うよ。1年間はやっぱり暗かったよね」

 ああ、判る~!!と心の中で激しく同意する。絶対これ、鬱だって思ってた、私も!

 力が入った反動でこんどは一気に抜けてしまって、私は後ろの椅子にもたれかかる。

 はあ~・・・とため息が出た。

 まさか、こんな状況で理解者が現れるとは思わなかった・・・。肩の力が抜けて深呼吸をする。

 つい飲んでしまったビールが胃に入り、アルコールが体を回りだしたのが判った。温かくなってきた指先をこする。

「ごめん、尾崎さん」

 急に前から謝罪の言葉が聞こえて、ハッと顔を上げる。

「え?」

「申し訳ないけど、俺、アポの時間だから行くね。代わりに高田が来るから、ここ」

 私は腰を浮かせた。

「え!?」

 今、サラッと何てった!?

 平林さんはナプキンを置いて立ち上がりながら笑う。

「高田が来ますよ。職域の帰り、飯食いに。折角だから一緒にと思ってさっき誘ったんだ」

 ・・・さっき?―――――――って、来てすぐのあの電話か!?


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