黒胡椒もお砂糖も


 ええええー!!やだやだ、私あの人苦手だもん!

 若干半泣きになりかけた私も立ち上がる。必死で言葉を探した。

「いや、あの、私もこれで・・・」

「駄目だよ、尾崎さんまだ全然食べてないでしょう」

 いいです、いいんです!私はもう十分ですー!!ってかあの無口で無愛想な男が来る前に逃げなければ!ミスター愛嬌の平林さんだからついついてきてしまったのだ。まさかまさか高田さんに交代されるとは思わないではないか!

 私が一人でパニくっている間にも、平林さんは鞄を掴んで支度を済ませたようだ。そして入口の方へちらりと目をやると片手を上げる。

 私は固まった。

 ・・・ヤバイ、来た!?私の苦手なあの男が来た?逃げなきゃ・・・無言で高田さんと二人でいるなんてごめんだよー!!

「お疲れ」

 平林さんが砕けた様子でそう言うと、丁度私の右斜め後ろから、ああ、と低い声がした。

 ぎゃあ。

 ・・・既にこんな近くに!?

 その体勢のままで目の玉だけ動かすと、周りに座っている女性客の視線がこのテーブル、詳細に言うと私の後ろに向かっているのが判った。

 何となく、そわそわした雰囲気が広がる。

 そりゃそうだろう。私の後ろには、まず間違いなく無駄にいい男が立っている。

 ・・・ああ・・・。私は唇を噛んだ。

 後ろに立った高田さんは不思議な顔をしたらしい。というのは、平林さんが説明を始めたからだ。


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